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東電OL殺人事件 - 2016.07.28 Thu

「東電OL殺人事件」
佐野 眞一


東電OL殺人事件 (新潮文庫)
佐野 眞一
新潮社
2003-08-28



園子温 「恋の罪」 を見て事件の全容が知りたいと読んでみた。


「恋の罪」を見て、この事件について実は何も知らないなあと感じた。
1997年3月、私は何をしていただろうか?

先日読んだ木嶋佳苗本「毒婦」でもそうだったけれど、事件をリアルタイムで見ている時は、わかっているようでわかっていなかった。
ニュースは事件のスキャンダラスな部分ばかりクローズアップする。
事件の全容を捉えることができるのは、裁判が終わってから。
そして、事件を掘り下げなければ、何も見えない。




本書は、1997年から1999年まで「新潮45」に断続的に連載された「ドキュメント『堕落論』東電OL殺人事件」をベースに加筆したもの。
かなり、かなりツッコミどころはあるけれど、事件の全容は俯瞰で捉えることができる。

この事件、昼は東電のエリートOL、夜は円山町で体を売っていたということに衝撃を覚えた。
当時は、「昼顔」 のセヴリーヌのようなことなのかな?と思っていた。


ところが、事実はぜっんぜん違っていたのよね。

被害者渡辺泰子の勤勉さには、驚いたというかなんというか。
平日は東電を定時で退社、円山町で客を取り終電で帰宅。
土日は、五反田のデリヘルに出社、その後円山町に向かうというルーティーン。
一日四人の客というノルマを自分に課していた。
また、取った客のことは几帳面に手帳に書き留めていた。

金に困っているわけではないのに・・・なぜ?


巻末の精神科医斉藤学(さとる)の話は興味深かった。
斉藤は摂食障害者のカウンセリングの専門家。

泰子の摂食障害は、尊敬していた父の死がトリガーになった。
泰子の父は東大を出て東電に入社。役員一歩手前で病に倒れ、52歳で亡くなった。
父の無念を晴らそうと、泰子も慶応大学経済学部卒業後東電に入社。
順調にステップアップをしていたが、著者は2度転機があったと指摘する。

社内のハーバード留学の選抜試験に、ライバルの東大卒の女性社員が選ばれた。
その後泰子は不本意な出向を命じられる。

泰子は死んだ父親を理想化するあまり、「父親に比べて見下げ果てた自分」「汚い自分」を処罰したいという衝動から行動していった。
その結果、心と体が分離され、心が体に「汚い自分」になることを命じていった。
これは、「懲罰的超自我」と呼ばれる。

泰子には常に「申し訳ない」という感情があり、親の過大な期待、要求にこたえられないと感じた時点から「自己処罰」が始まる。
父親に可愛がられた泰子、優秀だった泰子。
亡くなったことで、父は「聖化」されて行く。

納得できる話だった。
と言っても、一つの仮説であります。
ハーバードの選抜試験に泰子が実際応募していたかどうかはわからない。
謎は謎のまま。

本の方は、被告となったネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリの冤罪問題にに多くのページが割かれている為、いささか大風呂敷を広げたような感。
確かにゴビンダの冤罪は明らかであった。信じられないような警察のでっち上げには驚いたけれど、著者の”ネパール旅紀行”の章はまるっと余計。
円山町の土地の成り立ちも、泰子が出向した時に書いた論文も要らない。
もっと客観性が欲しかった。


===
「恋の罪」は、この事件を基にしたものの、別の話にアレンジした。
映画を見た時は別の話になってると思ったけれど、事件を知ると巧みに事実をすくい上げている。

東大卒の父親、ファザコンで父の跡を継いだ娘。
映画では、父は大学教授で、娘も教授になっていた。
また、泰子の母親の家系は室町時代に遡る名家だそうで、そのあたりのところもうまく盛り込んでいたと思う。
五反田のデリヘルの名称が、映画では「魔女っ子クラブ」だったけど、実際は「マゾっ子宅配便」だったのには笑った。

===
しかし、もしあの日殺されなかったら、泰子はどうなっていたのだろうか?
娘が何日も家に帰って来ないと警察に届けを出した際、母親は泰子が円山町でやっていたことを知っていたのだった。
それらもみな謎のまま。
そして、真犯人も謎のままなのだった。
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