2017-10

黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実 - 2015.11.07 Sat

「黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実」
リチャード・ロイド・パリー/濱野大道(訳)





あの事件は一体何だったんだろうか?
あやふやになった記憶を手繰りながら読んでみた。






2000年7月、六本木でホステスとして働いていた元英国航空の客室乗務員ルーシー・ブラックマン(21)が、突然消息を絶った。
失踪当初から事件を追い続けた英紙《ザ・タイムズ》の東京支局長が、日英豪関係者への10年越しの取材で真相に迫る。
滞日20年、日本を知り尽くした著者にしか書き得なかった底知れぬ闇とは?


いやあ、おもしろかった。読み応えあった。
いわゆる「ルーシー・ブラックマン事件」のルポルタージュなんだけど、単なる事件だけでなくその周辺、背景まで過不足なく書かれてある。

イギリス人女性、ルーシー・ブラックマン。
彼女がいかにして東京に行くことになったか、どのように姿を消したのか。
家族の来日、捜索・・・
懸命の捜査にも拘らず、一向に犯人にたどり着かない。

事件の顛末は知っているのに、永久に事件は解決しないんじゃないかと思って読んでた。
しかし、ある一人の男が捜査線上に浮かび上がる。
点と点がつながり線になって行く件はカタルシスさえ覚えた。


綿密で丁寧な取材、膨大な情報量が詰め込まれていながら、著者リチャード・ロイド・パリーの構成力の見事さよ!
長編ミステリー小説を読んでいるような、当時のニュースでは知り得ない事実が次々と出て来て、まさに「事実は小説より奇なり」、ページを繰る手が止まらなかった。

もしこれがフィクションだったら、「ない、ない。そんなことあるわけないって!?」 とツッコんだところ多々。

たとえば、ルーシーの父親ティムにオランダから電話が入る。

――事件にはある日本の裏組織が絡んでいて人身売買が行われている。自分なら確かな人を通じて交渉できる。
ルーシーを助けたい。その為の資金を用意して欲しい。

ティムは半信半疑ながらも彼と接触。結局彼に賭けることにして金を渡した。
男はある時はベルギー、ある時は香港にいると言い、スリリングな展開。
ところが全ては全くのウソだった。
ということは事件の経過から知っていたはずなのにドキドキと読んでしまった。

次にはある日本人から連絡が入る。
彼はSM愛好家だった。
自分がかつて属していたSMサークルの主宰者(裕福な実業家)が抱いていた”妄想”に今回の事件がぴったり合致する。
背の高いブロンドの外国人を誘拐して、自分の”地下牢”に監禁して拷問する、というものだった。
かつてのサークル仲間と連絡を取り、その地下牢を調べようとするが・・・。

マジか・・・。その仲間はここでは言えない死に方をしていた・・・。

さらに、裁判の後半に、ルーシーの父親ティムは織原から1億円の見舞金を受け取ることに合意。
引き換えに、織原に対する不利な証拠には問題があるという申立書にサインしたのだった。
出す方も出す方だけど、受け取る方も受け取る方だわよ。

そして、犯人織原城二(おばらじょうじ)の人となりも掘り下げて行く。
織原は写真を一切撮らせなかった。今明らかになっている彼の写真は2枚だけ。
自分の痕跡を一切残さなかったのだった。
ところが彼は収集マニア、記録魔で、自分の性生活(=「征服プレイ」と呼んでいた)の映像を撮り、ノートに記録を残していた。
結局これらの記録が決定的証拠となった。
ノートにはおよそ200人の記録があった。

人間の”好み”というのは興味深い。
織原の記録ビデオを見ると、織原は”外専”というわけでなく日本人も相手にしていた。
外国人は大柄で派手な女性だが、日本人女性はみな太った女性だった。
織原によると、醜い女と醜いセックスをするのが良かったという。

織原は女たちをクスリで眠らせた上で凌辱していたわけで、そういうことが詳らかになった後で冒頭の引用を読むとそら恐ろしい。
冒頭には、川端康成 「眠れる美女」 の一節が。

――はだかの美女にひしと抱きついて、冷たい涙を流し、よよと泣きくずれ、わめいたところで娘は知りもしないし、決して目ざめはしないのである。
老人どもは羞恥を感じることもなく、自尊心を傷つけられることもない。


織原は、自意識の塊りのような男だった。

事件自体も異常だが、公判もまた異様な状況の連続。
唖然としながら読んだ。
2007年に一審、2008年に2審。
最終的に最高裁の判決が出たのが2010年。
長いみちのりだった。

事件から15年。複雑な事件を一冊の本にまとめるにはそれなりの月日を要する。
このルポルタージュは、英国人のパリーゆえに成功したものであると思う。
日本人ではこうは行かなかった。
彼の「日本論」がいちいちおもしろい。
特に日本の警察・裁判に対する目は辛辣。

――日本の警察は融通が利かず、想像力に欠け、偏見に満ち、官僚的で、前時代的。
――傲慢で、独善的で、往々にして無能。
――日本の犯罪率の低さの本当の理由が、警察の管理能力に起因するものではなく、国民のおかげであることはあまりに明らかだ。
警察の能力が高いからではなく――警察の能力が低いにもかかわらず――
日本人は常に法を守り、互いを敬い、暴力を忌み嫌うのだ。


織原一連の事件に関して見るなら、無能呼ばわりも已む無しかなと。
日本の警察は優秀と言われているが、パリーも指摘している通り、「常識を超えた犯罪に関しては経験が乏しすぎた」

海外ドラマ「クリミナル・マインド」は、FBIの特別犯罪捜査班「BAU」の物語。
猟奇殺人、連続殺人などを手掛けるプロフェッショナルなチーム。プロファイリングのプロもいる。
これを見ながら、日本にもこういうチームがいるのかなあ?と思うが、日本には必然性がないのだ。
日本にどれだけシリアルキラーがいるのか?
必要だからアメリカにはこういうチームが存在するんだよね。
それがいいのか悪いのか?

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しかし、日本の警察の「自白」偏重主義は大いに問題がある。
日本での冤罪事件の全てはこれにあるとペリーは言う。

英国人の彼から見る六本木の描写もいい。
髙村薫女王様をしてこう言わしめている。
「外国人の眼に映る東京の風景の鮮烈なこと! 
都会の闇とそこに蠢く人間がこれほど活写されたことはない」

   
パリーは、リンゼイ・アン・ホーカー事件にも言及している。
二つの事件は「日本ならではの犯罪」というパリーの意見に大いに納得したのだった。
二人はなぜ安易に男の部屋について行ってしまったのか?
それは日本が”安全”で、日本人男性が”安心”な存在だから。
もし本国イギリスであったなら、賢明な彼女らは警戒していたに違いない。

最後にルーシーの写真が載っている。
愛らしい彼女の表情に涙が止まらなかった。
と同時に、これを読んだ私自身も「黒い迷宮」にすっかりはまり込んでしまったのだった。

===
訳者濱野大道(訳がまた素晴らしかった)があとがきで、参考に読んだと記していたので読んでみた。




噂には聞いていたけれど、予想を上回る悪文に呆れるのを通り越して笑えた。
著者は「夕刊フジ」の記者って、フジ、大丈夫?
文もひどいけれど、内容もひどい。
ルーシー事件の取材で知り合った”変態マニア”(本気でスナッフビデオを撮りたいSMマニア、使用済みパンティマニアなどなど)に多くのページが割かれ、具体的でおぞましい描写にドン引き。
これらはルーシーと何の関係もない。

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