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怒 り - 2015.07.01 Wed

【怒 り】 吉田修一

怒り(上)
吉田 修一
中央公論新社
2014-01-24



怒り(下)
吉田 修一
中央公論新社
2014-01-24



【悪人】 から7年、吉田修一先生の新たなる代表作。
2013年「読売新聞」朝刊に連載された。




冒頭、八王子で凄惨な殺人事件が起きる。犯人は逃走。
殺人事件から1年後の夏。房総の漁港で暮らす洋平・愛子親子の前に田代が現われ、大手企業に勤めるゲイの優馬は新宿のサウナで直人と出会い、母と沖縄の離島へ引っ越した女子高生・泉は田中と知り合う。それぞれに前歴不詳の3人の男…。惨殺現場に残された「怒」の血文字。整形をして逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?

この話のミソは、どの場所にも訳ありの流れ者が出て来ること。
彼らの内の一人が犯人山神に違いないのだが、どれも怪しく疑わしい。
誰が山神なのか?!

というところまでが上巻。

逃走中の犯人=山神は、英国人女性殺害事件の犯人・市橋達也を想起させる。
二丁目での目撃情報があったこと、無人島で潜伏生活を送ったり、整形手術を受けたりなどなど。

物語は三つの場所を並行して描く。
三者はそれぞれ問題を抱えていて、読者ははらはらと見守りながら話は進行する。

中でもゲイの青年優馬の描写がリアル。
大企業に勤め華々しい仕事、身だしなみにうるさくジムに通い、都会のゲイライフをエンジョイしている。
直人と出会うハッテンサウナのくだりがなまなましい。
が、その万事そつのない優馬が、ホモサウナで拾った直人と一緒に暮らし始める。
直人は自分のことを一切語らないが、優馬は直人といると不思議とやすらぎを覚える。

こんなくだりが印象に残る。
優馬の母が亡くなり、優馬はネットで母と自分が入る墓を探してみる。

――そのまま検索を続けているうち、優馬はふと不謹慎なことを思った。
こうやって墓地を選んでいる気分が何かに似ていると感じていたのだが、それが友香と兄が結婚する際、友香に相談されて結婚式場を選んでいた時の気分に似ていたのだ。そう気づくと、なるほど自分たちのような同性愛者は結婚をすっ飛ばして墓の心配なんだなと笑いがこみ上げてくる。


そしてこの後優馬は直人に何気なく言う。
――「ちょっとこれ見てくれよ。わりと手ごろで富士山が見える墓だって。お前も家族仲悪そうだし、一緒に入るか」
もちろん冗談のつもりだった。しかし直人がなぜか髪を拭く手を止め、ふと目を伏せ、「ああ、いいよ」と頷く。
その横顔が真剣で、優馬は慌てた。
「冗談だよ」と誤魔化すと、「分かってるよ」と直人も笑う。
「いや、別にそれでも俺はいいけどさ」と言えば、「分かってるよ」とまた直人が笑う。


ちょっとしたやりとりだけれど、読み終わってふりかえるとしみじみとする・・・。


そして下巻へ。
山神を追う刑事・北見が加わり、坂を転げるように物語は展開して行く。
下巻に入ると早い段階で山神が誰なのかはわかる。
しかしそこから予想外の結末に向かう。

人はどんな時に「怒り」をおぼえるのだろうか?
その人を殺したいと思うほど強い「怒り」。
信じていた人に裏切られた時?
幸せな人を見た時自分の境遇を嘆き、いわれのない「怒り」を抱く場合もあるかも。

そして人を信じるということは?
自分の素性を語らない人と知り合った時、その人をどこまで信じられるのか?

山神の「怒り」とは何だったのか?
山神という人物とは?
【日曜日たち】 で吉田修一先生が語っていたような形態の物語だと思う。
ドーナツのように中がぽっかりと空いている、山神自身は中心にいながら「遠景」となっていて、三つの物語自体が語られるべき本質なのだと。

読んでいる間目の前にその映像が目に見えるような感覚が・・・。
吉田修一作品はいつも映像的なんだけど、今回は特に強く感じた。
千葉の漁師町の潮のかおりや、沖縄の青い空、そして都会で暮らすゲイたち・・・。

ということですでに映画化が決定しており、【悪人】の李相日監督が再びメガホンを取るそうで。
沖縄パートの辰哉は、現地沖縄での一般公募キャスティング予定。
さすが李相日監督、すごくいいアイディア!辰哉はフレッシュな人にやってもらいたいな。
優馬は?直人のキャスティングは?手あかがついてない人でお願いします。
映画は来年2016年公開予定。


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