2006'10.24 (Tue) 03:12
「カポーティ」(2005/CAPOTE)
なぜカポーティは最高傑作「冷血」以降、約20年も筆を執れなかったのか? 1959年11月15日、カンザス州ののどかな田舎町で一家4人惨殺事件が発生する。翌日、ニューヨークでこの事件を知った作家カポーティは、これを作品にしようと思い立ち、すぐさま現地へと取材に向かう。
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静かな映画だ。物語は淡々と進む。なので、カポーティの、ひいては、それを演じるP・S・ホフマンの、エキセントリックなしゃべり方や身振りがいっそう強調される。これは一度見たら忘れないくらいインパクトがある。とはいえ、それが悪目立ちしないのは、作品全体に力があるからであろう。
監督ベネット・ミラーは、時代にもてはやされながら、家庭的に恵まれず、又、同性愛者であることをカムアウトしていたカポーティを、米国社会の「部外者」として描く。
一方、事件の犯人・ペリー・スミスも似たような生い立ちの「部外者」で、取材を通して交流する内、カポーティは彼に共感していく。事件への関心と創作意欲に燃えるカポーティ。
しかし、事態は思わぬ方向に。一度は死刑判決が出たのだが、自ら手配してやった弁護士の再審請求などで、裁判は長期化、”友人”として無理強いしなかったが、事件当日のことを頑なに話さないペリーに苛立ち、事件から4年経って尚、物語が完結できない。己れの成功の為に、早い死刑を望んでいる自分と”友情”との葛藤。追い詰められていくカポーティ。ここがこの作品一番の見どころか。
ゲイらしいセンスの良さで、いつも上質の物を身に着け、いかにもNYのセレブ感いっぱいのカポーティの着こなしが、見ていて楽しい。知的で、ウィットに富んだカポーティは魅力的だ。
一方、何の予備知識も無く見たのだが、事件の取材に同行する女性”ネル”。カポーティを陰で支える有能な秘書かと思っていた。聡明だがまあ地味な女性だ。ネル、というだけでフルネームも出て来ない。ところが途中で、彼女は「アラバマ物語」を書いた作家・ハーパー・リーと明らかになる。え~~っ!!ただの地味なおばはんかと思っていたら!ガ然見方が変わる! 米国文学界では周知のことかも知れないが、一般的には知らない人も多いと思われ、そういうちょっとした”ビックリ”は意図的なんだろうな。ニクいぜ、ベネット・ミラー。 ネル・ハーパー・リーは、「アラバマ物語」を発表、その後'61年ピュリッツアー賞受賞。「アラバマ物語」('63)は、グレゴリー・ペック主演で映画化された。
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2003年アメリカ映画協会(AFI)は「スクリーンの中のヒーローNo.1は誰?」を発表。ペック演じる弁護士(ヤモメの子持ち)アティクス・フィンチは、インディ・ジョーンズ、ジェームズ・ボンドを抑えて1位に選ばれた。最初このニュースを聞いた時、え~~っ!!イガ~イ!と思ったが、同時にうん、うん、と納得もした。この映画を見た人は、全員納得すると思うよ。まだ見てない人は、一度見てくらはい。絶対感動して泣いちゃうよ。今思うと、アティクス・フィンチは、オヤジスキーのツボキャラであろう(え、違う?)。
ハーパー・リーは、アラバマでカポーティの幼馴染み。「アラバマ物語」に出て来るディル(弁護士の一人娘の初恋のにーちゃん)は、カポーティがモデルと言われている。尚、AFIは、同時に「スクリーンの”ヒール”」も発表している。誰でしょう?答えは最後に。
カポーティは、映画にもけっこ出演していて(「アニー・ホール」にも出ていたんだ!)、私が憶えているのは、「名探偵登場」('76)ある富豪の家に名探偵たちが招待され、その屋敷で事件が起こる、という話。その富豪がカポーティで、最初にちらっと出て、すぐ消えちゃうんだけど、キョーレツな印象がありました。この作品、ピーター・フォークやピーター・セラーズといったオールスターキャストの割り、話もよく出来ておもしろかったのよね。(って、今見たら、二ール・サイモンが脚本だった。そりゃ、おもしろいはずだわ)
ネルを演じるキャスリン・キーナー、「マルコヴィッチの穴」('99)では、sexyな美女だったのに。まるで別人。女優ってスゴい!今回見ていて、sexyな美女と地味なおばはんの違いは、肉付きと肌のツヤ、というのがわかった。気をつけよう。
そうそう、小柄で貧相なカポーティの役作りの為、P・S・ホフマンは、14kgも減量したそうな。それでも十分顔がデカかったけどねっ。
AFI「スクリーンの”ヒール”」 1位 ハニバル・レクター/羊たちの沈黙 2位 ノーマン・ベイツ/サイコ 3位 ダース・ベイダー/STAR WARS
マリリンとダンスするカポーティカポーティは、「ティファニー」の配役を、オードリーじゃなくてマリリンを熱望していた!