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ベニスに死す - 2011.11.25 Fri

「ベニスに死す」
(1971/)ITALY+FRANCE/Morte a Venezia /Death in Venice)


venice01_20111102211534.jpg


今年2011年は、作品公開40年、ルキノ・ヴィスコンティ没後35年、マーラー没後100年、生誕150年だそうでございます。
それを記念して、ニュープリント上映。
ニュープリントで大きいスクリーンで見られるのは、ありがたいこってす。

@銀座テアトルシネマ



この作品を最後に観たのは一体いつのことだったか?
若い時分に観た時は、なんて滑稽で残酷なラストだろうと思った。
しかし今観ると、この老作曲家にとっては、なんと幸福な死ではないか、と思うのだった。

若い人がこの作品を本当の意味で理解するのは容易ではない。
歳を重ねた時、よりこの作品を楽しめるのではないか。

この作品はおそらく ”一般的には”、ヴィスコンティ作品の中でもっとも有名な作品ではないだろうか。
この作品をそう言わしめるのは、アイコンともいうべき タジオ=ビヨルン・アンドレセンの存在によることが大きい。
今回観ていて、タジオというのは、「美」 としての絶対的存在であるなと実感。
彼を美少年であると思うか否か、好きか嫌いか、そのような次元をもはや超越した存在に見えた。
そうさせたのはこの作品そのもの=ヴィスコンティ・マジックなのだけれど。

venice03.jpg


タジオのモデルとなった貴族に関してのエピソードは、<ルキーノ・ヴィスコンティ ある貴族の生涯> に書いたのでご参考まで。
この本には、トーマス・マンの小説を映画化する際のヴィスコンティのアプローチの仕方が記してあり興味深い。
たとえば、原作では主人公グスタフ・アッシェンバッハは小説家である。
これを映像化する場合、小説家はよろしくない。なぜなら作家が執筆している姿を観客が見た時、

――その作家が 『戦争と平和』 を書いていようと、
歯医者に支払う小切手を書いていようと同じ事である――

あはは、なるほど。
また、作曲家・指揮者だったら、ピアノに向かって作曲しているシーンや指揮中の動作や表情でドラマチックな効果を得られる。
ごもっとも。

トーマス・マンがマーラーに心酔していたのは事実で、アッシェンバッハのファーストネーム グスタフは、マーラーからのいただき。
(マン夫妻はマーラー夫妻とお茶を一緒にしたことがある。マンはいたく感激していたそうな)
尚、アッシェンバッハの親友アルフリートは、アルノルト・シェーンベルクがモデルと言われている。

venice06.jpg
トーマス・マン ”美少年好き” (← マン夫人の証言あり
 


タジオがホテルのホールで 「エリーゼのために」 を弾くシーン (この曲はヴィスコンティがビヨルンに、何か弾いてごらんと言った時に自分で選んだ)、ここからフラッシュバックし、若いアッシェンバッハが娼館にいる。
若い娼婦が同じ曲を弾いている。
このシーンを淀川さんは、

「映画で見る限りアッシェンバッハはここでタジオ少年を
精神の中で肉体的に犯しているのである」


と言っている。
え、アッシェンバッハの想いは、あくまでプラトニックではないの?と思ったら、淀川さんの指摘を肯定するようなヴィスコンティ自身のコメントがあった。

タジオと娼婦エスメラルダに共通点があるかのように描く。

――タジオとアッシェンバッハの間に結ばれた無言の関係が
両義性を帯びて行く経緯を強調するためであった。


両義性とは?
聖なるものと俗なるもの、精神と肉体、ということだろうか。


===
――アッシェンバッハはタジオに魅せられていても、
その一家と知り合いになりたいという気は起きない――
有名な芸術家であれば一家と近づきになるのはそうむずかしくなかったであろうが。


こんなシーンがある。
アッシェンバッハはタジオたちポーランド貴族一家に近づき、「早くここを発った方がいい」 と忠告する。
そして彼を見上げたタジオの髪にそっと触れる・・・。

ところがこれは妄想なのだ。
このシーンを観た人の多くはは、なぜそうしないのか?と思うのでは?
しかしこの作品のキモは、”そうしない” ところにあるのだ。それでいいのだ。

venice04.jpg  妄想


この作品はヴィスコンティ作品の中でも、実は上級レベルではないかと今回感じた。
軽い気持ちで観ると、途中置いていかれる。


===

ヴィスコンティの晩年のテーマのひとつとなった 「老い」 と 「死」、アッシェンバッハを演じたダーク・ボガードはこの時果たしていくつだったのか? 
観ていて気になって気になって → 50歳、いやいやまだまだ若い。
ダーク・ボガードは、ヴィスコンティにこの作品のアッシェンバッハ役の出演を長距離電話で要請された時、

「ローレンス・オリヴィエからハムレットを演じるように、
ただし彼よりもうまく、と言われたのと同じだ」
と語った。

===

タジオはお召物をたくさんお持ちであった。
セーラー服は白ベースと紺ベースをお持ちで、その他金モールのついた軍服風、金ボタン付きネイビーブレザー、水着だけでも三着はあった。
美少年の記号ともなったセーラー服をはじめ、この作品の衣装を担当したのは、ヴィスコンティ組 ピエロ・トージ。
彼の貢献は多大と言えましょう。

venice02.jpg
(左)ピエロ・トージ、ルキーノ、美しいシルバーナ・マンガーノ



ことほどさようにこの作品は、
キャスト、演出、撮影、衣装、音楽・・・映画というのは総合芸術であると実感する一作。

街で、銀行のATMコーナーやショッピングモールで、マーラーの交響曲第5番を耳にした時、私たちの想いは一瞬にしてヴェニスに向かうでありましょう。



venice05.jpg


===
先日、こんなニュースが。

「ベニスに死す」の舞台になったホテルが売却!映画ファンと観光客に衝撃(2011年9月8日)
ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「ベニスに死す」の舞台になったホテル「オテル・デ・バン」がアメリカ資本によって買い取られ、マンションとして売却されることになり、多くの旅行者と映画ファンに衝撃が広がっている。
2009年にアメリカ資本によって買い取られた「オテル・デ・バン」は、8月29日付けのル・モンド誌によると、2フロアーを除いて、マンションとして1平米15,000ユーロ(約160万円)、100平米の部屋で約1億7,000万円にて売却されることが決定。映画ファンだけでなく多くの旅行者に衝撃を与えることとなった。


===
来年には、<家族の肖像> がリバイバル上映予定。
待ってました! もう一度観たかった。 これ、スキなのだ。

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