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熊夫人の告白  - 2011.11.07 Mon

「熊夫人の告白」 ベアリーヌ・ド・ピンク、長谷川 博史 他

熊夫人の告白熊夫人の告白
(2005/02)
ベアリーヌ・ド・ピンク、長谷川 博史 他

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強く、楽しく、ときにせつなく。HIVと共に生きるドラァグクイーンの半生記を日記形式で綴った詩小説。

ディープなゲイ文学愛好の先達から拝借。



この作品は、キッチュでビザールな表紙とタイトルから、なにやら珍味なものを想像していた。
が、それこそが、著者・ベアリーヌ・ド・ピンクのトリックなのだった。

これはある一人のゲイの半生を綴ったものであります。
その点において、たいへん興味深K読んだ。
今や ”誇り高き女装詩人 ベアリーヌ・ド・ピンク” となった彼女の口からその半生が語られる。

――子供の頃、
私はお嫁さんになりたいと思っておりましたの
愛する人に嫁ぎ、
ささやかでもいい
平凡な家庭を作りたいと思いましたわ
(詩:熊夫人の告白


熊夫人の語りはこんな調子で、この独特のリズムと調子に読者は、知らずベアリーヌ・ド・ピンクの世界に引きずり込まれて行く。

九州・島原で生まれ、何の情報もない田舎で育ちながら、己の性指向に目覚め始めた時に読んだ 『平凡パンチ』の記事:
「インタビュー・新宿二丁目のゲイボーイ、クロちゃんの型破りな人生」
がその後の人生を変える。
二丁目に行きたいが為に東京の大学を志望、一年の浪人生活を経て第一志望に合格、上京。晴れて憧れの東京生活を始める。

リンダはこの辺り:上京したての頃 が読んでいて一番わくわくした。
今と違って何も情報がない時代、何もかもが手探り。
それは今では考えられないくらい刺激的だったのではないでしょうか。

特にハッテン場である都内の名画座巡りの件りがおもしろかった。
今はなき渋谷・Z座の描写。

かつてナンシー関もここのことを語っていた。
ナンシーはここで、なんと <クルージング> を見て、終った時ふと周囲を見回した時、自分以外客は全員男と気づきあわてて外に出たと。

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(1996/03/26)
Al Pacino、Paul Sorvino 他

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今思い出すと、そういえばZ座は最後列に柵があって、そこはやたらと混んでいるのに、そこを抜けて中に入ると空いていて、「何だコレ?」と思ったような。
いや、他のどこかと混同しているのかも知れない。昭和の記憶・・・。
ということは、その、”他のどこか” もハッテン場だったのか。
→ Z座は今ビルになり、ロードショー館になってます。

ここで知り合った外国人:大学で日本文学を研究している先生の六本木のお宅にお持ち帰りされて初体験。
その後都心の名画座に出入りするようになり、アッパークラスの洗練された人たちと親しくなる。
しかし、ある日ふと降りた上野の映画館がまた人生を変える。
洗練された都心の人たちとは全く違う労務者風の不細工なゴリラ男に激しく欲情する自分に気づくのだった。

こうしてさらにディープな深みにずぶずぶとはまって行く・・・。

その間に ”彼女の体の上を通り過ぎた男たち” のエピソードにギョウテンするやら爆笑するやら。
(このエピソードたちはこれから読む方の為、ヒミツにしておきますわ。ウフフ)

やがて三十代半ばを過ぎた頃、HIVに感染していることがわかる――


この本が単なる ”ある一人のゲイの半生” に終わっていないのは、ベアリーヌ・ド・ピンクの詩とヒゲ面で女装という、はっきり言ってかなりおぞましいフォトの数々による。← この写真はどれもいいですね

そして、巻末の長谷川博史の解説につながっていく。
「欺瞞に満ちた詩小説 『熊夫人の告白』」

長谷川氏はベアリーヌ・ド・ピンクを痛烈に批判する。
「複雑にねじれたベアリーヌの本性」
「傲慢な差別主義者としての側面」

なぜこの批判的解説を収録するのか?
長谷川氏とは何者か?

ゲイ雑誌『バデイ』創刊企画プロデュース、『ジーメン』創刊編集長。
「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」代表。

彼こそが、ベアリーヌ・ド・ピンク というギミック。

現在長谷川博史さんは、HIVの予防活動のアドバイサーや行政の対策委員などを務めている。
そして今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭上映作品 <あの頃、僕らは> にゲストとして登場。
この映画の記事内で述べたように、たまたま映画祭の少し前に本書を読み終わり、その後長谷川さんがゲストと知り感激でございました。
長谷川さんは今現在まで発症にはいたっておらず、「それより持病の糖尿病と高血圧の方が厄介よ」 と場内の笑いを誘っておりました。
'90年代にサンフランシスコ総合病院を訪れた時のこと、現在の活動のことなど次から次へとマシンガントークのように話してくれました。
長谷川さんのお元気そうな姿に安心いたしました。

===
先日、平成の大そうじをした際、自室より 『クィア・ジャパン・リターンズ VOL.0』(2005年5月)が出て来た。
レビューのページに本書が取り上げられているのを発見!
編集長・伏見憲明自ら書いております。ヤタ!

伏見憲明にしか書けないレビューだなあと思うので、一部引いておきます。

――「ゲイ」 という範疇は、外部からの抑圧的なラべリングによって与えられた自意識を基にしている。
だから同性愛が世間に受け入れられるようになればなるほど、その濃度は薄くなっていく。
ゲイであることにこだわりが少ない若い世代に比べて、「熊夫人」 は、自らの指向に呪縛されているとも言える。
またそれゆえに、禁忌を侵す興奮も大きかったとも想像できる。

――これは一人のHIV感染者でゲイの、カミングアウト・ストーリーであり、時代の記録にもなっている。
「熊夫人」のように性に過剰な意味づけをせざるをえない人々は、性が解放された現在ではもはや滅びる種族でしかない。
が、彼らが精一杯、時代の制約の中で生きてきた切なさは、ここに残る。
ある意味で、これはゲイをめぐる最後の私小説である。


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