著者いわく、本書はおそらく日本で初となる「痴漢」について専門的に書かれた本。この本を読むまで、“痴漢”について何も知らなかったなと思った。
12年の臨床データから明らかにされる衝撃的な実態の連続。
四大卒、会社員、妻子あり・・・痴漢はどういう人間か?
つまりごく平凡な男性。
(この本では特に多い加害者=男性、被害者=女性について言及しています)
たしかにちょっとおかしな人がそばにいたら、女性は警戒するはず。
多くの痴漢は性欲解消として女性に触るわけではない。
痴漢行為の間、彼らはぼっ起していないという。
よく言われる「痴漢するくらいたまっているなら風俗にでも行け」というのは全くお門違い。
著者は、「ストレスの対処法(=コーピング)」の問題と言っています。
ストレスへの対処が下手だから生きづらい。
会社で嫌なことがあった、人間関係で嫌な思いをした→だから自分より弱い立場の人をターゲットに支配欲・征服欲を満たす。
痴漢はスリルとリスク(逮捕)が伴う“娯楽”であり、ドーパミンの出方も半端ない。やめるはおろか、行為はエスカレートしていく。
多くの痴漢はみな「捕まっていなければずっと続けていた」「捕まってホッとした」「安心した」と言う。
痴漢は「依存症」なのです。自分でやめられるものではないと著者は言います。
痴漢は勤勉で努力家。事前のリサーチを怠らず、駅のホームの位置関係やターゲットの研究に多くの時間を費やす。
“努力家”というくだりにぷっと吹きました。(ちなみに派手な服装の女性はターゲットにしません)
人は何をきっかけに痴漢行為に目覚めるのか?
多くは他人の痴漢行為を目撃し、「やってもいいんだ」「意外と簡単なんだ」「女の人は何も言わないんだ」というところから始まる。こから「認知のゆがみ」が始まる。
「女性も喜んでいると思った」これはレイプの現場でよく聞かれる言葉。
また、「スイッチが入り、無意識のうちに痴漢していた」
「スイッチ」というのも多くの痴漢が使う言葉。
何者かがスイッチを入れたせいと言わんばかりの都合の良い言い訳。
この本を読んでいて一番怖いと思ったのは、この都合のよさ。
クリニックに通い治療を続けて行くと多くの者は反省を始めるが、
「家族に心配をかけた」「家族と過ごす時間を増やそうと思った」自分と家族のことばかり。
どの受講者からも「被害者」という言葉は出て来ない。
彼らにとって被害者は見えない存在、記憶から抜け落ちているのだ。
なぜか?被害者の存在を考えると痴漢を続けられなくなるから(治療中にも拘らず!!)
なんて都合の良いこと!被害者の方は忘れたくても忘れられないのに。
読んでいてむかむかしてくるけれど、著者は被害者の代わりに、何度も!大いに!憤ります。
だからなんだか救われる気分で、すっかりのめり込んで読んでしまった。
「反省も贖罪もない加害者たち」と著者は斬る。
逮捕された痴漢は反省ではなく、「たまたま運が悪かった」「次は失敗しない」と思うだけ。
何度服役してもやめられない。
性犯罪の中でダントツの再犯率(80%以上)!
むしろ逮捕された時の恐怖がさらなる強い刺激となり達成感が増幅されるというから言葉がない。
治療プログラムについてもページを割いている。
治療期間は最低3年が基本。治療は簡単な道のりではありません。
その一つに「薬物療法」もあり(えっ、薬が痴漢に効くの!?)
また悪影響を及ぼすアダルトコンテンツの規制も訴えています。
多くの痴漢はジャンル「痴漢」のAVを見ている。
これは更なる認知のゆがみを増幅させる。
「こういうやり方もあるんだ」「痴漢を喜ぶ女がいっぱいいる」
インターネットの弊害も大きく、プログラム受講者にはフィルタリングを勧めている。
また、加害者家族のケアにも取り組んでいる
→妻・母は自分を責めるが、父親は当事者意識がなく的外れなことを言う。
「おまえの育て方が悪い」と妻をなじる。
加害者自身もとんちんかんな父親に「もう面会に来ないで欲しい」と言うくだりに吹いた。
痴漢大国日本、こんなに多くの被害者を日々出しているのに、国の動きはなぜこんなに鈍いのだろうか?!
著者は、そこに「男尊女卑」という日本特有の根深いものがあるという。
服役中のプログラムも多くの者が抜け落ちているし、受けられる施設は限られている。
本書によると、一人の痴漢が裁判等司法手続きにかかる費用は1千万円。刑務所に入ると年間300万円かかるという。
初犯の段階での治療・予防に取り組むべき。
チロルはこのことを中学とか高校で教えるべきだと思う。
あなたたち全員が痴漢予備軍ですよ、と。
「夏休みの課題図書」にして、読書感想文を出させたら?
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インタビューで、
斉藤さんは、被害者がもっと楽に被害を訴えられる仕組みづくりが必要と言う。
車内のボタンで通報できるなど可視化できるだけで随分変わるはず。
そして社会に根強く残る男尊女卑な価値観を変えて行かなければならないとも。
また、大阪大学大学院牟田和恵教授は、被害を軽く見る社会環境を指摘。
周囲の人、特に男性が被害にあっている女性を助け、痴漢を許さない姿勢を示すことは大きな効果がある。
企業や学校は痴漢被害にあった場合に遅刻や欠勤・欠席扱いせずサポートする姿勢をと語る。
目撃者として摘発に協力した場合もこれに準ずる。
牟田先生は「冤罪」は古い情報に基づいた「都市伝説」に近いと言ってます。
今は手についた繊維片やDNA鑑定などの捜査が進んでいるそうです。
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牟田先生の意見に頷きました。
日本は(特に都会で)他人と関わるということが希薄だと思う。
他の国では被害にあっている人を見たらもっと積極的に関わるのでは?
冤罪を怖れる男たちにとっても、被害女性一人の訴えだけでなく、第三者の人たちがもっと証言してくれれば救われるのでは?
冤罪に関しては、あなたの周りで冤罪被害にあった人を知っていますか?と言いたい。
ではあなたの周りで痴漢被害にあった人はどうですか?
姉や妹は?妻は?娘は?